Column

ゲノム編集の最新ニュース(2024年3月:医学・遺伝子工学①)

2024.07.22

アメリカ

1.果実蝿を用いたCRISPR技術の最適化に向けた取り組み

セシリア・ガリックは、自身の卒業論文「CRISPR Cas-9 in Drosophila melanogaster」のために果実蝿の遺伝子を編集しました。彼女はこの研究を通じて、CRISPR技術の最適化を目指しました。CRISPRは、DNAの小片を使用して、あらゆる生物のゲノム上の特定の配列を識別し、二重鎖切断を行うことができます。彼女はこのプロジェクトにおいて、異なる二つのガイドRNAを比較し、一方が他方よりも成功しやすい理由を解明しようとしましたが、結果を出すことはできませんでした。彼女の研究はヒルズデールの研究助成金を使用して6週間で行う予定でしたが、技術の習得に時間がかかり、500個の注入された卵から生き残ったのは1匹の蝿のみでした。彼女は、このプロジェクトがヒルズデールでのCRISPRに関するさらなる研究を容易にすることを望んでいます。

参考資料:https://hillsdalecollegian.com/2024/03/senior-presents-thesis-on-genetically-modifying-flies/

2.CRISPR配達システムの革新による安全な遺伝子編集の約束

CRISPR技術の安全な遺伝子編集に向けた新たな進展について報告しています。研究者たちは、一種のナノ粒子を用いて、CRISPR-Cas9を効率的に細胞に送達する方法を開発しました。これにより、遺伝子編集の精度が向上し、副作用が減少する可能性があります。この新しい手法は、将来的に遺伝子治療やがん治療などの分野で有用なツールとなる可能性があります。

参考資料:https://www.news-medical.net/news/20240307/Breakthrough-in-CRISPR-delivery-promises-safer-gene-editing.aspx

アルゼンチン

3.遺伝子疾患研究におけるアルゼンチン科学者の重要な進歩

アルゼンチンの科学者は、FHL1遺伝子の変異によって引き起こされるまれな遺伝子疾患の研究において重要な進歩を達成しました。この疾患についての研究は、Thiago Felstinskyの5年間のキャンペーンで注目されました。CONICETとFleniの研究者は、患者から採取した細胞を元に、この疾患をモデル化するための幹細胞を生成することに成功しました。この進歩により、疾患の研究やさまざまな治療法のテストが可能になります。
この研究は、Stem Cell Research誌に掲載され、2023年にアルゼンチン臨床研究協会で発表されました。研究は、Fleniの神経科学応用研究所(LIAN)とCONICETの研究者である幹細胞と遺伝子編集の専門家、ルシア・モロ博士によって主導されました。
この疾患は、筋肉の弱化を引き起こし、患者によって異なる症状が現れることから、「パンドラの箱」とも呼ばれています。Thiagoの場合、全身に影響がありますが、母親のVanessa Reinerには片腕にのみ影響がありました。
この研究成果は、遺伝子疾患の研究や治療法の開発において、新しい治療戦略を模索するための基盤を築きます。特に、この研究は、疾患モデルを用いて遺伝子治療の可能性を探ることを目指しています。

参考資料:https://www.infobae.com/salud/2024/03/01/cientificos-argentinos-dieron-un-paso-clave-para-la-investigacion-de-una-enfermedad-genetica-muy-rara/

イタリア

4.高コレステロールリスクを減らすエピジェネティックスイッチ

2024年3月5日、ミラノにあるサン・ラファエレ・テレトン遺伝子治療研究所(TIGET)の研究者たちは、血中コレステロールのバランスを崩す欠陥遺伝子を抑制する分子ツールをマウスで設計し、テストしました。この実験は、遺伝子のDNAを変更せずに遺伝子欠陥を治療できることを証明するもので、Nature誌に報告されました。エピゲノム編集は、遺伝子の活動を自然に調節する化学化合物をターゲットにし、特定の遺伝子に結合してその転写を防ぐ新しい技術です。研究チームは、肝細胞が発現するPcsk9遺伝子を抑制するために、蛋白質を設計しました。Pcsk9の欠陥は、心血管疾患の高リスクと関連する家族性高コレステロール血症を引き起こします。この技術は、蛋白質をコードするmRNAをリポソームナノ粒子に包み込み、血流を通じてマウスの肝細胞に配達することで実現しました。このエピジェネティックな沈黙は細胞の複製後も継続し、恒久的である可能性がありますが、別の設計された蛋白質によって逆転することができます。

参考資料:https://www.nature.com/articles/d43978-024-00044-z

日本

5.京都大学、動物の精子健康を分析する新しい遺伝子編集ツール

京都大学の研究者は精子細胞の発達と健康を探るユニークなスクリーニングシステムを開発し、CRISPR技術を用いて生きている動物の精巣細胞内の遺伝子を変更しました。研究チームは効率的な「リバイバルスクリーニング」方法を開発し、精巣細胞に遺伝子変更ツールを直接届けました。この方法により、Rd3遺伝子が精子健康に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。この研究は、男性の避妊オプションや不妊療法の可能性を開く新しい道を切り開くことができるとされています。

参考資料:https://www.earth.com/news/novel-gene-editing-tool-analyzes-sperm-health-in-animals/