Column

ナス属22種が語る「遺伝子重複」という伏兵―パンゲノム解析が照らすゲノム編集の新しい地平についての論文紹介

2025.04.21

ナス科

本コラムでは、世界中の農業・畜産・微生物の「ゲノム編集」に関する情報やニュースをピックアップして、その内容をご紹介します。弊社の提供するサービスとは直接関係ない情報も含め、幅広くお届けします。なお、本記事の内容は、発表された論文やニュースの内容を紹介するものであり、ChatGPTとperplexity AIを利用して作成しました。今回は、2025/03/01 ~ 2025/03/15 前後の公開記事からのピックアップです。

ピックアップ論文:Solanum pan-genetics reveals paralogues as contingencies in crop engineering

ゲノム編集技術の進歩により、私たちは作物の形質を精密に設計できる時代へ足を踏み入れました。しかし、その背後には “遺伝子重複(パラログ)” という思わぬ落とし穴が潜んでいます。2025年3月に Nature 誌へ掲載された研究では、トマトやジャガイモ、ナスを含むナス属(Solanum)22種の高精度パンゲノムを構築し、パラログの多様化が形質予測を不確実にする主要因であることが示されました。

パンゲノムで読み解く作物進化の “全景”

研究チームは PacBio HiFi リードなどを用いて、22種23ゲノム(うち1種は二倍体相当の 2 ハプロタイプ)を染色体スケールで組み立てました。平均コンティグ N50 は 66.7 Mb、BUSCO 完全性は 96.9 %という高品質です。
得られた遺伝子モデルは 82 万 5,493 座で、その約 60 % が全種で共有される “コア遺伝子”、残りは種特異的に分布する “ディスペンサブル” な領域でした。
さらに、全ゲノムで確認された重複遺伝子は 57 万 5,464 対に達し、古い全ゲノム重複(WGD)由来から近年の小規模重複(SSD)まで、多段階の歴史が刻まれていることが分かりました。

遺伝子重複が形質予測を揺さぶる四つの運命

240 検体・8 組織のトランスクリプトーム解析により、重複遺伝子ペアの発現パターンは「用量均衡」「パラログ優勢」「組織特化」「完全乖離」の 4 グループに大別されました。全体の 67 % が互いに連動しており、片方を改変するともう一方が予想外の補償や干渉を示す潜在リスクが浮かび上がっています。
また、WGD 由来パラログほど発現が保守的で、SSD 由来パラログは急速に分化しやすい傾向が確認されました。これは「同じ遺伝子でも種が違えば振る舞いが異なる」という経験則を定量的に裏づける結果です。

果実サイズ QTL の代表格 CLV3 が語るパラログ進化劇

トマトでは CLV3 プロモーターの構造変異と抑制的パラログ CLE9 の相互作用が子房室数(ロクール数)を制御します。一方、東半球トゲナス類では CLE9 を失い、代わりに CLV3 自身が重複して補償機構を再構築していました。
CRISPR Cas9 で重複コピーを個別に破壊すると、単独破壊では軽度、多重破壊では重度の花序肥大が生じ、コピー数と表現型が極めてデリケートに対応することが実証されました。

アフリカナスが示す「一文字違い」の設計図

アフリカナス 10 アクセッションのミニパンゲノム解析では、CLV3 重複コピーの一方が約 30 万 bp の大欠失で融合遺伝子 CLV3^DEL へ転化している系統が見つかりました。この変異は花房室数を減少させ、他の QTL(SCPL25 like 欠失や Chr 5 領域)と相互作用して果実サイズを微調整していました。
同一遺伝子を標的にしても、トマトでは「増室」、アフリカナスでは「減室」に働く―パラログ状況が異なるだけで、ゲノム編集の帰結が正反対になり得ることを鮮明に示しています。

ゲノム編集デザインへの実践的示唆

パラログマップの事前整備

対象作物種や系統固有の重複・欠失状況を把握し、対象作物種や系統固有の重複・欠失状況を把握し、標的遺伝子と類似の機能をもつ重複遺伝子(パラログ)を事前に特定することが必須となります。

表現型‐遺伝子用量モデルの併用

標的遺伝子が単独で存在する場合と、重複コピーとして存在する場合での発現量の違い(用量感受性)をあらかじめ評価し、それに基づいて編集後の補償や抑制の必要性を設計に反映させます。

多重編集より段階的アプローチ

重複遺伝子どうしが複雑に影響し合う場合は、一度にすべてを編集するのではなく、少しずつ遺伝子の組み合わせや発現を変えながら、段階的に目的の形質に近づけていく方法が効果的です。

まとめ

本研究は、パンゲノムという俯瞰的レンズで “遺伝子重複” の影響を定量化し、ゲノム編集が直面する予測不可能性の核心を明らかにしました。トマトとアフリカナスを例に取ると、同じ CLV3 でもパラログ構成が違えば編集効果は逆転し得ます。この知見は、作物ごとにカスタムメイドのパラログ・ランドスケープ解析を前提とする “次世代ゲノム編集設計” の必要性を強く示唆しています。重複遺伝子を敵ではなく味方に変えること―それこそが、食料システムの多様性と回復力を高める近道となるでしょう。

参考文献

1.Benoit, M. et al. Solanum pan genetics reveals paralogues as contingencies in crop engineering. Nature 640, 135 146 (2025).