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「効率的なニワトリ新品種作出」と「始原生殖細胞の可視化」を可能にする ゲノム編集ニワトリの作出

2023.10.13

<ポイント>
・始原生殖細胞を活用してゲノム編集ニワトリ「gSAMURAI」を作出
・このニワトリを代理母として使用することで、効率的にニワトリ新品種の作出が可能
・始原生殖細胞を蛍光タンパク質で可視化したことで、生殖細胞が産み出される仕組みの理解につながる

<報道概要>
徳島大学先端酵素学研究所の竹本龍也教授は、株式会社セツロテック 陳奕臣(チェン・イーチェン)研究員、九州大学大学院理学研究院 齋藤大介教授、大阪公立大学大学院理学研究科 鈴木孝幸教授との共同研究において、ニワトリ始原生殖細胞の可視化と薬剤依存的な除去を可能にするゲノム編集ニワトリ「gSAMURAI」を作出しました。この成果は、胚発生における始原生殖細胞の分化・移動の理解と、ゲノム編集技術による効率的なニワトリ新品種作出につながるものであり、家禽類の育種改良の高速化や高付加価値化が実現できます。
本研究成果は、令和5年9月25日にDevelopmentに掲載されました。

【学術誌への掲載状況】
An inducible germ cell ablation chicken model for high-grade germline chimeras
Yi-Chen Chen, Daisuke Saito, Takayuki Suzuki, Tatsuya Takemoto*
Development (2023) 150 (18): dev202079.

*Corresponding authors(責任著者)

<背景>
「胚発生における始原生殖細胞の理解」における課題
始原生殖細胞(PGC)は将来の精子や卵子となる次世代を生み出す重要な細胞です。ニワトリの場合、始原生殖細胞は、将来のからだを構成する体細胞集団から離れたgerminal crescentと呼ばれる場所で生み出されます。その後、血流に乗って血管内を遊走し、最終的には血管外へと移動して、生殖巣(将来の精巣や卵巣)に到達することがわかっています。しかしながら、どのような仕組みで始原生殖細胞が生み出され、血管から外へ移動して、生殖巣にたどり着くのかについてはわかっていません。こういった仕組みを理解するためには、始原生殖細胞の可視化が必要でした。

「遺伝子改変ニワトリ(新品種)の作製」における課題
多くの動物では、1細胞の段階にある受精卵においてゲノム編集がなされており、その受精卵(1細胞)が発生してつくられる個体がゲノム編集個体となります。しかしながらニワトリの場合、「メスニワトリから産み落とされた卵」はすでに2-6万個の細胞になっており、ゲノム編集に使うことができません。そこで、始原生殖細胞においてゲノム編集を行い、その始原生殖細胞を代理母に移植(血管に注射)する方法が採られています。
 ただ、このゲノム編集ニワトリの作製法には課題がありました。代理母ニワトリの生殖巣には、代理母の生殖細胞があるため、移植されたゲノム編集始原生殖細胞と競合することになります。つまり、代理母の生殖細胞が存在することで、ゲノム編集始原生殖細胞に由来する次世代が得られにくくなってしまいます。このような課題を解決するため、さまざまな方法で「代理母の生殖細胞を除く」ことが試みられてきましたが、効率よく「代理母の生殖細胞を除く」方法ではありませんでした。

<本研究の成果>
 本研究では、始原生殖細胞(PGC)でのみ発現するCVH遺伝子に注目しました。CVH遺伝子座に蛍光レポーター遺伝子mCherryと、酵素反応によって細胞障害性物質を作るニトロ還元酵素遺伝子NTRとを挿入することで、始原生殖細胞の可視化と、薬剤依存的除去を実現するgSAMURAIニワトリをゲノム編集によって作製しました。

ニワトリ胚からPGCを摘出(上図①)し、体外培養後、mCherry遺伝子とNTR遺伝子とをPGC特異的に発現するCVH遺伝子座に挿入しました(CVH-NTR-mCherry)(非Cas9型ゲノム編集因子を使用、上図②)。得られたゲノム編集PGCを、代理母ニワトリに移植しました(上図③)。この代理母ニワトリの生殖巣(精巣・卵巣)には、移植されたゲノム編集PGCが定着します。成鶏になったニワトリ(F0 個体)を野生型ニワトリとかけ合わせ(上図④)、ゲノム編集ニワトリ個体(F1)を誕生させることに成功しました(上図⑤、下図A)。

作出したゲノム編集ニワトリは、CVH遺伝子座にmCherry蛍光タンパク質遺伝子およびNTR遺伝子が挿入されており、赤い蛍光が精巣・卵巣特異的に確認されました(=CVH遺伝子の発現と一致、下図B)。また、プロドラッグMTZを投与すると、生殖細胞でのみ発現しているNTRの作用によって生殖細胞のみが除去できることが確かめられました。
これらのF1ニワトリ個体を構成するすべての細胞は、CVH-NTR-mCherryヘテロ接合型となり、次世代以降にもこの遺伝型・形質が維持されます。

<今後の展望>
今後は、本成果を基盤として、胚発生におけるニワトリ始原生殖細胞の分化・移動の仕組みを探究するとともに、効率的なゲノム編集ニワトリ作出によって新品種の開発に向けて取り組みます。

【特記事項】
本研究は、徳島大学先端酵素学研究所共同利用・共同研究拠点事業の支援および株式会社セツロテックとの共同研究を受けて行いました。

<本件に関するお問い合わせ先>
徳島大学先端酵素学研究所 発生生物学分野
担当者 教授 竹本 龍也
電話番号 088-633-9160
メールアドレス takemoto.tatsuya@tokushima-u.ac.jp

<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社セツロテック 担当:大塚
メールアドレス otsuka@setsurotech.com